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院長コラム

Vol.135 山形大学の重粒子線治療について

 北日本初という触れ込みで山形大学が平成31年度に開始する重粒子線治療は、陽子線治療と並んで粒子線治療と呼ばれる新しい放射線治療です。従来の治療よりも癌にピンポイントで照射するので、周囲の臓器を傷つけないという利点があり、全国14ヶ所(重粒子線5、陽子線10)の施設で行っています。今年度の診療報酬改定で、小児の固形癌に対する陽子線治療と切除できない骨腫瘍への重粒子線治療に限定して、健康保険が適用されることになりましたが、その他の癌(肺・前立腺・膵臓など)は、従来の放射線治療との差が明らかでないため見送られ、これまで通り先進医療として混合診療で行われています。15年前から先進医療だったということは、標準治療に認められなかったということです。

 最大の問題は高い設備費です。今回は約150億円と見積もられ、県と35市町村も15億円ずつ計30億円の支援することを決めています。採算を合わせるためには、年間600人の患者が必要で、北日本全域だけでなく海外からの患者の呼び込み、いわゆる医療ツーリズムも計画されています。九州唯一の重粒子線治療施設がある佐賀県鳥栖市は、人口7万人余りの地方都市ですが、新幹線で百万都市の福岡とは15分、熊本市とも25分で、韓国や中国からのアクセスも良好です。開院以来3年で1500人弱の治療実績がありますが、同様のことを山形で行うのは容易ではないでしょう。

 300万円程度になる高額な自己負担を軽減するために、保険会社は先進医療をカバーする保険を売り込み、自治体は金融機関と提携してローンの利子を補給する制度を設けています。有効ならば保険診療にするのが本筋で、自己負担は一気に軽減される代わりに過剰医療が懸念されます。膵臓癌は診断時点で他臓器に転移していることが多く、前立腺癌は数が多い割りに死に至ることが少なく、従来の放射線治療(施設数は10倍以上で設備費は1/10程度)と同様の効果と言われ、いずれも適応例は少ないはずです。採算を優先すると件数を増やすために適応が拡大され、医療費の増加に拍車をかけることになります。

 経済効率最優先の医療は問題ですが、経済効率を無視しても医療は成り立ちません。再来年の先進医療会議で保険診療に採用されるか注目されますが、どちらにしても厳しい未来が待っていると思います。重粒子線治療施設の半数は国内にあり、山形以外にも建設が予定されています。この分野では日本が世界のリーダーです。いったん動き出すと誰も止めようとせず責任も取らない国民性が災いしなければよいのですが。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第799号 平成28年10月15日(土) 掲載

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