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院長コラム

Vol.129 百歳超人口世界一の中身は

 百歳以上の高齢者の人口は、昭和38年には全国で153人でしたが、その後20年間で10倍、更に17年間でその10倍になり、昨年には6万人を突破し、数年前からは人口が約2倍の米国を抜き世界一になりました。52年間で400倍になったわけです。昨年は百歳を迎える人口が3万人を超え、国から贈られる純銀製の銀杯の予算が3億円に達したため、今年から銀メッキになり予算は半減されます。

 長寿はめでたいことですが、その中身を見ると喜んでばかりはいられません。我が国の高齢者は欧米に比べて寝たきりの占める割合がかなり高いのです。寝たきりに厳密な定義や統計はありませんが、介護保険で要介護4以上の人口が約130万人であることから、65歳以上の人口の5%近くが寝たきりと考えられます。介護施設の入所者が寝たきりである頻度は、我が国は1/3程度で、スウェーデンの8倍という報告もあります。

 その理由を考えると、畳中心の生活環境やリハビリテーションの不備もあるでしょうが、終末期医療の差が最大の要因ではないかと私は思います。欧米では、食べられなくなった高齢者にチューブ栄養や点滴を行うことが明らかに少ないのです。これは「口から食べられなくなったら命は終わり」という考え方が日本より受け入れられているからです。福祉先進国と言われている北欧では、末期癌はもちろん、認知症末期や老衰の人にチューブ栄養や点滴をすることはありません。米国の内科学の教科書には、「死期が迫っているから食べないのであり、食べないことが苦痛や死の原因になることはない。」と書かれています。食べない人にチューブ栄養や点滴をやならいと脱水や低栄養になりますが、そのために痰やむくみが減り、意識も悪くなり苦痛を感じなくなるというメリットもあるのです。

 本来、どこまで延命処置を行うかは本人の意志が尊重されるべきですが、それができない時は、家族の意志に委ねられることが多いのが現状です。想定外の事態に直面した家族は混乱し、家族間で意見が対立することも珍しくありません。結局は、誰もが責任を追わないままにズルズルと延命処置が続けられるという事態になります。

 私の父は5年前に92歳で亡くなりました。延命処置は何もせず植物が枯れるような最期でした。ある日、水に浸したガーゼを口に持って行くと、赤ん坊のように吸いつきました。この時の感触は今も残っています。親不孝者の私にしっかりとした記憶を父は残してくれました。食べる能力も意思もない人が食べられないで死んでいくのを餓死とは呼ばないのです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第787号 平成28年4月15日(金) 掲載

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