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院長コラム

Vol.127 情報公開すると医療はよくなるか?

 厚生労働省は、平成29年度から大病院に癌・脳梗塞・肺炎の患者数と入院日数などの治療実績の公表を義務付け、公表しないと診療報酬を減らすという方針を明らかにしました。情報公開することで、患者側は病院ごとの医療の質を判断でき、病院側は質を向上させるために努力するという効果を期待してのことです。将来は治療成績を公表して、診療報酬を差別化するという方針も厚労相は表明しています。成績のよい病院は儲かり、そうでない病院は淘汰されるということです。

 医療の中身がわかりにくいのは事実で、情報公開によって医療の質が向上することは理屈ではわかりますが、実際はどうでしょう。2004年に米国で心筋梗塞や狭心症に対する冠動脈バイパス術の致死率を公開した結果を分析したところ、手術件数全体は増加し、重篤な患者はより成績の良い病院で手術を受けるようになりました。件数が増えたのは、成績を良くするために、適応を拡大して軽症患者にも手術が勧められたからでした。その一方で、成績の悪化を恐れて重篤な患者は見捨てられることが増えました。重篤な患者の致死率は上昇し医療費も増大したため、この制度は患者にとって害のほうが大きいと結論されました。カナダでは、同じ手術の安全性に関する情報を病院間で共有すると死亡率が劇的に下がったが、成績を一般に公開しても何も変わらなかったという報告もあります。

 癌治療も、より初期のより健康な患者を集めれば成績は向上します。進行度別に比較すると多少ばらつきは抑えられますが、同じ進行度でも専門家には微妙な違いが分かるものです。国立がんセンターの成績がトップレベルであるのは、癌の専門家しかいないからという理由で合併症のある患者の受け入れに積極的でないことと、全国から東京に行ってまでも治療を受けようという心身とも状態の良い患者さんが多いからというのはさほど的外れではないはずです。我が国でも既に有名病院ほど危ない患者には手を出さない傾向があるのです。

 難度の高い治療の件数が多いことは、医療の質を高める上で必要ですが、多ければ十分とは言えません。合併症が極端に多いのは論外ですが、手術死亡0など良すぎる成績も疑ってかかるべきです。数字で信用できるのは、病院間の比較ではなく、同じ医療機関での変化であるという指摘もあります。マスコミはこのような事実を理解していないか、病院のランキング本を売るために無視しているかのどちらかです。官僚は理解していないのか、それとも病院を減らす口実にするのでしょうか。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第783号 平成28年2月15日(月) 掲載

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