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院長コラム

Vol.64 原発作業員に自己造血幹細胞の事前採取を!

 一度に大量の被曝をすると、血液や胃腸などの細胞が障害を受け死に至ります。治療としては感染や出血に注意しながら、自然の回復を待つだけでしたが、骨髄移植をすることで血液の細胞は再生が期待できるようになりました。1999年に茨城県東海村で起こった臨界事故で死亡した二人にも行われています。一人は妹さんの骨髄細胞が定着し増え始めたものの、その細胞自身が患者さんを攻撃してしまうという移植片対宿主病(GVHD)を起こしたことが致命症だったと言われています。

 あらかじめ自分の骨髄の細胞を保存しておけば、自分の細胞であるためGVHDの心配はありません。骨髄の採取には全身麻酔と数日間の入院が必要でした。この負担を軽減するために、骨髄の活動を刺激する薬を注射して、末梢血(普通の採血)から造血幹細胞を取り出す試みが行われています。

 原発作業員にあらかじめ造血幹細胞を採取し凍結保存しておくと、もしもの時の治療がやりやすくなるだけでなく、将来白血病を発症した際にも使えるというメリットがあります。そのため、東京の虎の門病院の谷口医師が3月下旬に政府に働きかけました。

 ノンフィクション作家の山根一眞氏によると、 当時の仙谷官房副長官はゴーサインを出しましたが、 原子力安全保安院は、安全であるから不要と回答し、菅総理も参議院予算委員会で同様の答弁をしています。そして、追い打ちをかけるように、4月末に日本学術会議はこの提案に対して「不必要かつ不適切」という声明を出しました。その理由は、作業が安全であるから、そして治療の安全性が確立していないからということです。造血幹細胞移植はすでに五千件以上行われており、造血細胞移植学会も勧めているにも関わらずです。更に驚くべきことに、この時は会議は行われず、結論だけが回覧されたということです。日本学術会議といえば日本の叡智とも言える組織のはずです。どういう意図でこのような見解が出されたのでしょう。実際8月には原発内で致死的な線量が確認されているのです。

 谷口医師らの努力と製薬会社の協力により、費用は1人当たり15万円まで下げられ、希望者に実施されていますが、本来この程度の出費は国と東京電力がすべきものです。東電社長の年収で五百人が可能になるのです。レトルト食品を食べ、万が一のときはなすすべもなく死んでいくという状況で、現場の人間にただ頑張れというのはあまりにも残酷です。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第677号 平成23年9月15日(木) 掲載

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