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院長コラム

Vol.34 精子の中に小人が見える?

 ミクロの世界を見るためには、顕微鏡を用います。二つのレンズを組み合わせる光学顕微鏡では、5千分の1ミリのものまで見ることできるようになりました。顕微鏡を発明したのは、オランダの呉服商レーウェンフックで、精巧な高性能レンズを作り、それまでの拡大鏡の倍率を飛躍的に上げることに成功しました。彼は、小さな昆虫も卵からふ化することを発見し、昆虫は植物種子から自然発生するという当時の考えを否定しました。また、ハエにも脳があることや、ノミの口先が尖っていることも発見しました。

 1674年には、辛さの秘密を調べるために、何週間も水に浸しておいたコショウを観察しようとしたところ、予想もしなかった多数の動き回る生物が見えました。これが、微生物発見の瞬間です。

 1677年には淋病患者の精液から精子を発見したレーウェンフックは、健康人や動物でも同様のものが見られることから、精子が生殖に関わっていることを予想しました。彼は著書で、「この微小生物は赤血球よりも小さく、形はピーナッツ豆に長い尻尾を付けたようなもので、ウナギが泳ぐように尻尾を動かして前進する」と述べています。

 その後1694年に、同じくオランダの科学者ハルトソーケルは、精子の中に小人が体育座りをしている姿をとらえ、ホムンクルスと名付けました。ホムンクルスには赤と青の2種類があり、卵子の中に入った精子が、赤なら男、青なら女が生まれると考えました。この主張は18世紀まで支持され、卵子はただの培地であり、条件が整えば精液だけからでも人が作れると信じられていました。

 レーウェンフックは見えなかったものを見えるようにしました。それは、彼のレンズを研磨する技術がずば抜けていただけでなく、観察眼がアマチュアゆえに系統性がなく、徹底したものだったからでしょう。

 一方、ハルトソーケルは、女性は男性よりも劣ったものであるという当時の社会通念で、女性の仕事は男性が苦労して作った子供を培養する事であるはずと考えたため、見たいものが見えたのです。実際我々はほとんど知っているものしか見えないのです。夜空のオリオン座が見えるのは、オリオン座がどのようなものかを知っているからです。その一方、きっとこうであるという先入観があると、自分が思うように見えてしまうこともあるのです。

参考図書

福岡伸一著 『できそこないの男たち』 光文社, 2008年

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第611号 平成20年12月14日 掲載

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