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院長コラム

Vol.07 よい化膿と悪い化膿?

 手術をするときには、バイ菌が悪さをしないように注意します。これを感染予防といいますが、傷の化膿が細菌感染によって起こることは、19世紀後半になるまでわかりませんでした。

 この頃の外科手術は、外傷後の手足の切断が半数以上を占めていましたが、手術の傷は化膿するのが当たり前で、術後に死亡する原因の半数以上が傷からの感染でした。

 手術後5〜6日目に傷が化膿し、濃いクリーム色の臭くない膿が傷口からあふれ出た後に、肉が盛りあがって傷がふさがれば手術は成功したと考えられ、「好ましい化膿」と呼ばれていました。

 これに対して、傷の赤みが強くなり、周囲に広がるものを、「血性の化膿」と呼び、死に至ることが多く、丹毒として恐れられていました。さらに悪性の化膿は、「サラサラした膿による化膿」で、悪臭を放つ腐敗が起こり、病院壊疽と呼ばれ、確実に命を奪うものでした。

 このような化膿は、その後の研究で、好ましい化膿=ブドウ球菌、血性の化膿=連鎖球菌、サラサラした化膿=嫌気性菌ということがわかりました。

 当初、化膿は空気中の物質により起こるのではないかと考えられ、空気との接触を避けるために、ゴムや金箔を貼ったり、温めたり冷やしたり、さらに真空ポンプを使う方法も試されましたが、すべては失敗に終わります。

 問題解決のきっかけは、フランスの科学者ルイ・パスツールの『腐敗に関する考察』という論文です。そこには、「ブドウ酒の腐敗が、微生物によって起こり、煮沸によって予防できる」と書かれていました。これを読んだ英国人外科医ジョゼフ・リスターは、化膿が傷口から侵入する微生物によって起こるのではないかと考えます。傷口を煮沸するわけにはいかないので、化学的に腐敗を防止できないかと考え、石炭酸(フェノール)に注目します。石炭酸は当時、都市ゴミや汚水の臭い消しに使われていましたが、それが混じった汚水で育つ牧草を食べた牛には、寄生虫が減ることを知り、1865年に石炭酸を浸した包帯で傷口を覆うことを始めます。この方法を採用すると、それまで、40%以上あった手術の死亡率が、15%に減少します。その後、手術器具や外科医の手も石炭酸に浸すことを実践し、防腐法を確立します。

 その後、ドイツ人医師ロベルト・コッホの研究により、細菌が直接観察できるようになり、新しい事実が次々に明らかにされ、感染してから治療する『防腐法』ではなく、感染しないように予防する『無菌法』へと進歩していくのです。

 外科は、リスターの出現により、紀元前から紀元後に進んだと表現されます。彼はずば抜けて優秀な外科医であり、研究者であり、教育者でもあり、また熱心なクエーカー教徒でもありました。性格も温厚な愛妻家で、彼を悪く言う資料は存在しないようです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第531号 平成17年8月15日

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